ロロの空想

心に移りゆくよしなしごとを書いていくよ!

欲の本質―欲は抽象的で無対象である

 

 性欲、承認欲求、権利欲、購買欲、鑑賞欲、と欲には色んなものがある。
 しかし、それぞれの欲は、実は同じものなのではないか。
 つまり、それぞれの欲は別々の欲のように見えるが、実は一つの抽象的な「欲」があり、その欲を満たすための手段として、○○欲という具体的な欲があるのではないか、と私は考えた。

 以下で具体的にこのことを話そうと思う。

 まず、ここで言う「欲」の意味について決めておこう。
 ここでは、「欲=快を求める心の動き」、という解釈をすることにする。つまり、「欲を満たす=快を得る」ということができる。

 私が想定する、「欲」の本質とは以下の図のようなものである。

 

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 基本的に、我々は欲ゲートを通して快を得る。欲というのは、快を得るためのゲートである。欲の大きさというのは欲ゲートの大きさに関係する。ここでは、一つ一つの欲ゲートの集まりを欲ゲートセットと呼ぶことにする。
 上の図では、欲ゲートの大きさは、性欲>承認欲>購買欲となっている。このような欲ゲートセットを持つ人は、性欲や承認欲を大きく感じているということができる。
 しかし、それぞれの欲ゲートの大きさは人によっても違えば、同じ人でも心持ちによって変わる。
 例えば、映画鑑賞欲>性欲>運動欲、みたいな人もいるだろう。上の図の人でも、映画が好きになれば、このような欲ゲートの大きさの順になるかもしれない。

 ここで私が言いたいのは、以下のようなことである。
・欲というのは、快を得るためのゲートを指定するものである。
・極端に言ってしまえば、様々な欲というのは本質的にはすべて同じ「快を求める動き」であり、欲の種類というのは快を得る手段の違いである。
・欲の大きさというのはゲートの大きさに依存する。
・他の欲ゲートがあれば、そこから快を得るバイパス経路ができ、相対的に他の欲ゲートの大きさは小さくなる。

 特に、「欲は本質的に一つである」ことと、「欲の種類というのは快を得るための手段の種類である」ということを強調しておく。

 これらの理論のことを、ここでは「欲ゲート理論」と呼ぶことにする。

 この理論から様々な現象を説明することができる。


 昇華の説明
 心理学では、実現不可能な欲求不満を、実現可能で社会的に認められる活動を実現しようとする現象を昇華と呼ぶ。
 例えば、満たされぬ性欲をばねに芸術やスポーツに打ち込むことなどを指す。

 これを欲ゲート理論で説明するならば、性欲ゲートから快を得ることが困難となったとき、承認欲求、制作欲、運動欲などをバイパスゲートとして快を得ようとする現象、と説明することができる。

 

 カタルシスの説明
 心理学・精神医学でいうカタルシスは、「劇を見て泣く」などといった感情の動きによる代償行為によって日々の鬱積を晴らすことを指す。
 これも、日々の鬱積によって満たされぬ欲を、劇中の人物に感情移入することで仮想的に快を得ていると言える。言わば仮想的なバイパス経路の作成である。


 欲のバイパスのケース
 実際に、欲をバイパスさせているケースというのはたくさんある。欲ゲートのサイズ変更のことを全てバイパスというのは少し概念を分かりにくくするかもしれないが、ここではバイパスと呼ぶことにする。

部活動と不良
 これはある教育雑誌で読んだことであるが、学校での部活動が流行ったのは不良文化が盛りだった時代に、部活動に生徒を打ち込ませて非行に走るのを防ぐ目的があったらしい。
 スラムダンクが分かりやすい。
 これも、欲のバイパス作成と言えるだろう。

趣味や知能と性欲
 知能が高い人ほどスレンダーな人を好み、知能が低い人は巨乳を好むという話を聞いたことがある。単純に性欲の問題とも言い難いが、とりあえず、例に挙げておく。
 また、偏差値の高い高校と偏差値の低い高校では、偏差値の低い高校のほうが性的にも乱れているといった現状があると思う。
 また、時間を忘れて打ち込むような趣味を多く持っている人と無趣味な人を比較すると、無趣味な人のほうが、恋愛や性に依存しているイメージがある(個人的なイメージで確証はない)。
 これらも、性以外に社会的自己実現などの他の欲ゲートを持っていることで性欲がバイパスされていると考えることができる。

 

 物質的観点に基づいた説明
 ここで、神経解剖学的観点から考えると、欲の結果得られる快は、最終的には脳内報酬系でのドーパミン放出に集約される。したがって、欲を満たす=快を得るということは神経解剖学的にも一元的であると考えることは妥当である。


欲ゲート理論の応用

 性欲の昇華
 性犯罪の防止には、性欲を抑えることが必要となる。したがって、性欲をバイパスさせるための他の欲ゲートの拡大を性欲過剰な人の治療に使うという方法が考えられる。


 カタルシスの利用
 快が不足することによる抑うつ状態などの解決のために映画鑑賞などを通してカタルシスを引き起こし、バイパス欲ゲートによって快を得るという方法が考えられる。

 他にも、欲ゲート理論に基づいた心理療法はいくつか考えることが可能である。

 

 フロイトの言うリビドーの概念
 誤解があるかもしれないが、フロイトの言うリビドーの概念は性的欲求に基盤を置くようである。
 しかし、すでに述べたように、私は変換可能な心的エネルギーとしての「欲」は、何か具体的に対象が決まっているのではなく、対象のない抽象的な欲だと考えている。
 初めから備わっていて、閉じることはない基本的な欲ゲートというのは、たしかに、食欲、睡眠欲、性欲だと思っている。
 しかし、欲は性欲などを媒介して変換すると考えるよりは、抽象的で対象を持たない欲求を想定したほうがよいだろうと考える。