学校の人員配置を見直す
ここでは、学校の人員配置について私から提案をしたい。
ここで提案する配置方法は学校に限らず、様々な組織において導入が可能だと考えている。
はじめに学校における諸問題について論じた後に、学校の人員配置について提案し、他の分野への導入についても提案したい。
・学校の人員配置諸問題
まず、あらゆる組織において、上下関係というものは存在するが、上下関係にはフィードバック機構、あるいはセーフティーネットが必要である。
上下関係というのは権力の不均衡であり、強者は弱者に対して理不尽な要求をすることも可能である。それから弱者を守るためにフィードバック機構あるいはセーフティーネットというものが必要なのである。
現在は法、あるいは行政処分によって学校の教員を縛ることで生徒を守っている。
わいせつや体罰は処分を受ける。
しかしながら摘発されるのは一部であり、体罰なんかは当然のように見過ごされているのが実情であろう。
他にも、教科担当の先生が明らかに生徒のキャパシティを超える課題を出したり、先生の好き嫌いで成績をつけるといったような横柄も存在はするが、よほどの苦情が集まらない限り処分には至らない。
このように、現在の学校において、セーフティーネットが機能するまでには一定の閾値を超える必要があり、あまり上手く機能してないという感想を私は持っている。
次に、学校といっても偏差値や地域によって大きく内情が異なるというのは広く知られていることだと思う。
学校によっては、教師は教科指導よりも生活指導のほうに労力を割かれているということも多いだろう。
クラスの不良の相手をしていて、授業が全くできないといったような状況では学校のカリキュラムを遂行できていないと言わざるを得ない。
たしかに、学校の機能の一つとして「隠れたカリキュラム」といったものもあるが、授業ができないといった状況を是正し、明文化されたカリキュラムを遂行することが学校の期待される役割だと私は思う。
このように、学校では教科指導の他にも生活指導をしなければならないといった実情がある。そして、その生活指導によって教科指導が機能してないといった学校も多くある。
生活指導は「治安維持」とも言えるだろうから、学校は治安維持をしつつ教科指導を遂行することが期待していると考えられる。
また、学校において、生徒は様々な悩みや不満を抱えているが、それらにスポットライトが当てられることは少ないと感じている。
「教科指導がわかりにくい、もっとこうしたほうがわかりやすいのに。」といった生徒の声が教師にまで届いて授業が改善されるということはまれであろう。
また、教育雑誌などにおいて論じられる主役が教師であることが多く、
「教師の業務負担軽減」や「悩みを抱えた生徒への教師の対応」などについて論じられることが多くとも、生徒自体が主役となっていることは少ないと感じている。
これについては、生徒は未熟な人格者であり、生徒の考えは参考にはしても信頼には足らないとする傲慢さがあるように私自身は感じている。
このように、生徒自身の不満や悩みは汲み取られることなく、見えないままになっていることが多いように私は思う。
・上下関係をめぐる組織設計
学校に限らず、親と子、上司と部下といったように、上下関係は色々なところに存在するが、上下関係は上の者が下の者に対して危害を加える危険性を孕んでいる。
これを防ぐためには弱者からのフィードバック機構が必要である。
では、これをいかにして実現するかということであるが、単純に思いつくのはじゃんけんのように、上下関係をくるくると循環させるという方法である。
これは一見簡単そうに見えて実際に組織に導入することは難しい。
「自分の部下が自分の上司の上司であり、自分の上司は自分の部下の部下である」
といった設計は多くの人に受け入れられないであろう。
かといって、下の者が上の者に何かを直接進言することも難しい。
そこで、下の者に対してクライアントとして接して意見を聞き、それを上の者に伝え改善させる。あるいは、クライアントの様子を察して上の者に諫言するといった役割の者がいればよい。
この仲介者は、指導者―生徒の上下関係のラインからは少し離れた存在である必要がある。
・学校の人員配置の提案
さて、以上のようなことを踏まえて、学校の人員配置について考える。
私が考える、学校の人員配置、あるいは組織設計において重視するポイントは以下の2つである。
・分業による教師の負担軽減と業務遂行の効率化
・フィードバック機構をしっかりさせることによって生徒の不満を解消する
要するに、分業とフィードバックをさせる人員配置にしようということである。
私は、以下のような配置が望ましいと考える。
管理者は、教科担当にどのような内容の授業をし、どれほどの課題量にするのかを指定して依頼をする。生徒に対しては、教科担当の教員からどのような授業を受けているかを把握するとともに、授業の進行を妨害しているような生徒や教科以外において指導が必要と考えられる場合に指導をする。
教科担当に対しては、他の教科との課題量の調整や授業スケジュールの立案、生徒に対しては状況把握と治安維持のための指導に当たるということである。
現在の担任と生徒指導部、カリキュラム作成委員などを統合したような存在が管理者に当たる。
教科担当は、管理者からの依頼を受けて授業を実施する。教科担当者は、わかりやすさと知識の正しさと豊富さが求められる。
複数の学校を兼任したり、大学に所属する人による講義なども可能にすることで授業の質を保障することが可能となる。
また、従来の教科に縛られず、
「自営業者や公務員によるキャリア教育」
「感染症研究所職員による流行している伝染性感染症の予防について」
などといった講義も導入できる拡張性を備えることで、時代の流れに柔軟に対応が可能となる。
塾との連携も可能であろう。
相談役は、生徒の相談に乗ったり、管理者や教科担当のやり方についての不満や意見を聞き、管理者や教科担当にフィードバックする役割を持つ。
生徒が管理者のやり方への不満をこぼしてから動くと、「チクった」などとして余計にひどい扱いを受ける可能性があるため、場合によっては能動的に動く必要がある。
フィードバックにあたる相談役はあくまで、権力的に下の者を保護する立ち回りをしなければいけない。そうでなくてはフィードバックの意味がない。
例えば、
「宿題多すぎてつらいよ。」
という生徒に対しては、
「それくらいやらないとできるようにならないから文句言わずにやりなさい」
とは言わず
「宿題多いのがつらいんだね。」
といったように共感的理解を示すことが必要である。医療面接や臨床心理士の面接方法を参考にしてほしい。
相談役は、担任、カウンセラー、行政担当者、のような役割を統合した役割である。
私が考える学校における人員配置はこのようなものである。ここには書かれていないが、事務や部活動などの他の部署も管理者からの依頼によって活動するようにすれば後で部署も簡単に追加できるという拡張性も保障されるし、「事務作業に終われて教科研究ができない」といったような状況も改善されるだろう。
これらの役割は現在の教員免許制度では対応しきれない可能性が高く、導入のためには新しい免許制度が必要となるだろう。
・他の組織への導入
上記のような、「管理者」「担当者」「フィードバック役」の3役の配置というのは様々な組織においても適用が可能だと私は思う。
職場においてはパワハラや離職、ブラック労働の予防にも効果的だと思う。
設計思想については、過去にこのような記事を書いた。
設計思想というのは多くの場面で応用が可能なものが多い。
今回の学校の制度設計については、管理者やフィードバック役は人体のホメオスタシスを保つ生理学の仕組みや、イベントを監視しつつプログラムを実行するプログラムに発想の原点を得た。
また、下の者がフィードバック役との間に結ぶ関係については、法における契約関係の種類、医師―患者関係のような契約方式などを参考にした。
実際に今回提案した人員配置の設計がどれほど上手く機能するかはわからないが、身近なところに導入して今後効果を試してみたい。